2015年7月28日火曜日

「世界のアンドー」考

「世界のアンドー」考

関西の安藤忠雄が、日本の安藤になろうとしていたころ、関西のTVは、彼のことをしばしば特集していた。話のおもろいおっさんが、寄せ集まりのような若い衆とケッタイな建物をつくる。番組では面白いところだけ選りすぐったのだろうが、ドキュメンタリーとしてサマになる人物だったのだ。ここ京都にも安藤作品がチラホラ建ちはじめていて、それなりに好奇心をそそる外見だった。

やがて安藤は世界のアンドーとなって、それはそれでよかったのだが、今回の国立競技場騒動ではちょっとびっくりした。

まず審査員だったということ。なぜ選手としてコンペに参加しなかったのだろう。20年前のアンドーなら、絶対レフェリーやジャッジになったりはしない。俺はグローブをしてリングに上る!だったのじゃあなかろうか。

びっくりしたのはこれだったが、がっかりしたのは弁解である。

 デザイン決定後の基本設計や実施設計には
 「審査委員会はかかわっていない」

 2520億円という金額に関しては
 「何でこんなに増えてるのか、分からへんねん!」

これは漏れてきたコメントなのだが、面白くともなんともない。斯界一の権威が「なんでこうなったのか知らん判らん」では、収まるものも収まらない。現代の建築家は、梁の大きさやら床の面積やらから、工期や予算を叩き出してみようとはしないようである。

しかし記者会見ではこんなことを言っている。

「1964年の東京オリンピックとは時代が違って、コンピューターで徹底的に解析することによってできる美しい建築があるだろうと思っていた」

彼が審査にまわったのは、どうもこのあたりに理由があるようだ。

建築家と建築が、工学から離れて、芸術からも離れていって、経営学の範疇に入ってしまったのが現代であるわけだが、その先端を走っていたはずの彼でさえ、もう新しい建築の方向を的確に掴んで表現することはむつかしいのだろう。レフェリーという名の隠居である。

建築学会賞を受賞した作品であっても、その建築家にヒットが続かないとなると容赦なく壊される。建築家は存命中に代表作を失ってしまうことさえあるのだ。施主が建築家に要求するのは、構造でもなく、使い勝手のよさでもなく、まずは新奇さとその建築家の持つ名声なのであろう。程度の差こそあれ安藤の作品も似たような工程をたどる。今度の一件はそのスピードを早めたようである。

しかし、である。事態がここに至るまで「選手の目線で競技しやすい競技場を作るべきだ」という主張はどのくらい出たのだろうか。全然聞こえてこない。ある人が「鳥じゃあるまいし、こんなもの俺は真上からは見ない」と言っていたが、その通り。

http://agora-web.jp/archives/1649764.html
agora投稿分2015/07/24

2015年7月25日土曜日

二条城バス駐車場について(文化庁への公開書簡)

謹 啓

京都市にある国の史跡「二条城」につき、あらためてご注目たまわりたく、以下一筆申し上げます。

京都市の市街中央に位置する二条城は、築城400年を越え、相当の部分が国宝の指定を受け、かつ国の史跡となっております。東寺の五重の塔とならんで、京都市を代表する古建築であり、世界遺産としてユネスコに登録されていることは、ここに申し上げるまでもありません。

非宗教的なものでは唯一のものであること、その外堀、内堀の石垣の全長が6㎞以上あること、平地にあって面積が20万㎡以上あることなど、二条城は、京都地域にある17の世界遺産の中でも際立った特徴を有しております。

現在、京都市の文化市民局文化芸術部元離宮二条城事務所がこれを管理し、一日平均の入城者は4千人以上を数えます。

市街に立地することから、地下鉄の二条城前駅が隣接するほか、二条城の入城口である大手門の前の堀川通りを通るバスの本数も十分にあり、一般入城者のほとんどは公共交通機関を利用してこの城を訪れます。一方、修学旅行生も多数で、その形態は、かつての団体移動から班別少人数の移動の見学に移行しつつあるとはいえ、大型バスが使用される場合もまだまだ少なくありません。

ところで二条城は、幹線道路の堀川通り側に広い駐車場スペースを有しています。管理者は一般財団法人京都市都市整備公社であり、バス30台、乗用車216台の駐車が可能です。修学旅行で、バスの駐停車スペースの不足で入城に手間取るといった事態は、関係者においても顧慮の外のことと聞いております。

しかし現在京都市は、現在のスペース以外にもバス駐車スペースを確保しようとしています。そのこと自体にはとりたてて問題はありませんが、そのスペースのために2千㎡を越える林を伐採しようとしています。

この書簡には、写真を添付しますが、その林は、二条城の外堀にあっても、もっとも深閑としたところであります。世界遺産条約が求める周囲環境の、まさに要の部分といってもよいでしょう。

この二条城の事例では、京都市は市街の中心部、かつ史跡の直上に駐車場を建設を計画しておりますが、京都市の基本的な交通観光施策はパーク・アンド・ライドであります。市街外側、場合によっては大津市にまでも駐車場を確保し、市街ならびに古建築付近への車の乗り入れを極力避けています。四条通りにいたっては車道の車線を減少させてさえおります。どうしてこのような施策の食い違いが起こるのでしょうか。

重ねて申しあげますが、京都市の担当部署が、このような計画をし、貴台文化庁に樹木伐採の許可申請をするということは、まったく理解に苦しみます。申請に際しては、とりわけ慎重に審査されることを切望いたします。
敬 具